アーチェリーにおいて、弓具の調整(チューニング)は競技力を大きく左右します。
にもかかわらず、多くの選手がこう考えています。
「ショップで合わせてもらっているから大丈夫」
「プロに任せたほうが安心」
果たして本当にそうでしょうか。
最近、はっきりしてきた「ある傾向」
ここで、現場に立つコーチとして正直に書いておきたいことがあります。
最近、私たちのもとに持ち込まれる弓の多くが、
特定のショップで調整されたものであるという事実です。
しかもその多くに、共通した特徴があります。
調整の意図が選手本人にまったく共有されていない
選手の射や技術段階と噛み合っていない
明らかにズレている状態を調整完了としている
これは偶然ではありません。
問題は「ショップ名」ではない
誤解してほしくないのは、
これは特定のショップを名指しで糾弾したい話ではないということです。
問題の本質は、
👉 選手を育てる視点が欠けたサービス構造
👉 弓具をブラックボックス化する文化
にあります。
結果として、
選手は「わからないまま」
弓具は「迷子」
という三重苦が生まれています。
よくある「危険なショップ対応」
① 説明がない、または極端に少ない
「とりあえずこれで合ってます」
「細かいことは気にしなくていいです」
👉 なぜその調整なのか
👉 どこをどう変えたのか
👉 自分で戻せるのか
これが説明されないまま弓が返ってくるケースは、決して珍しくありません。
② 選手の道具で調整しない
ショップにある調整器具が正しいと信じて疑わない
選手が何を使うかは度外視
弓は人が使って初めて意味を持つ道具です。
選手が使っている道具を使用しない調整は、精度以前に責任を欠いています。
③ 「ショップ依存」を前提にした言葉
「ズレたらまた持ってきてください」
「自分で触るとおかしくなりますよ」
一見、親切に聞こえます。
しかしこれは、選手を永遠に“理解しない側”に置く言葉です。
情報はどこから取るべきか?
では、選手はどこから正しい情報を得ればよいのでしょうか。
結論は明確です。
① メーカー公式HP
推奨ブレースハイト
ティラーの考え方
リム・ハンドルの設計思想
👉 **これが“一次情報”**です。
ショップの意見より、まずここ。
日本にあるショップの多くは、一次代理店とのやりとりしかないケースが多いです。ですのでメーカーから推奨された調整方法や、使用しないで欲しい弓具の組みわせを完全に無視したサービスを提供することも少なくありません。
② トップ選手のSNS・発信
実際のセッティング
考え方の変遷
なぜその選択をしたのか
世界で戦う選手ほど、
調整を言語化し、公開しています。
👉 「誰が言っているか」
👉 「結果を出しているか」
ここを必ず見る。
③ コーチ・指導者との対話
ショップは「整える場所」、
コーチは「競技と結びつける存在」。
この役割を混同すると、必ず歪みます。
「触ると壊れる」は本当か?
よく聞く言葉です。
「下手に触るとおかしくなる」
半分は正しく、半分は嘘。
理解せずに触れば壊れる。
しかし、
理解しようと触らせないことの方が、はるかに危険です。
失敗してもいい。
数値がズレてもいい。
👉 なぜズレたのか
👉 何を戻せばいいのか
それを学ばせない限り、選手は一生「他人任せ」です。
本来、弓具は「選手のもの」
はっきり言います。
自分の弓の状態を説明できない選手は、
まだその弓を使いこなしているとは言えません。
今のブレースハイトはいくつか
センタ―ショットの意図は何か
なぜこのポンドなのか
ティラーは何を基準にしているのか
これは知識ではなく、責任です。
コーチとして伝えたいこと
私は現場に立つコーチとして、強く思っています。
弓具調整をブラックボックスにする文化は、
日本のアーチェリーの競技力を確実に下げている。
世界で戦う選手ほど、
自分の弓を理解している
数値と感覚を結びつけている
最低限の調整を自分で行える
これは事実です。
選手へ:今日からできる一歩
ショップで調整してもらったら「理由」を聞く
数値を必ずメモする
メーカーHPで裏を取る
トップ選手の発信と照らし合わせる
わからなければ、コーチに聞く
最初は時間がかかります。
失敗もします。
でもその経験こそが、
「弓を使っている選手」から
「弓を理解している競技者」へ変わる瞬間です。
おわりに
ショップは必要です。
しかし、依存を前提としたサービスは必要ない。
選手が自立し、
自分の競技人生に責任を持てるようになること。
それが本当の意味で
選手のためになるサポートだと、私は信じています。

